
家を住み継ぐ
都心のマンションから山の麓の貸家に引っ越したのは3年前。貸家といっても、いわゆる平屋のそれではなく、一見ごく普通の一軒家。2階もある。その実、ちょっと変わった一戸建てでもある。「おおっ、山荘みたい!」これが我が家を訪れた人があげる第一声だ。
まず、目に入るのは杉板が張り合わされているLDKの壁。窓からは山を埋める一面の木々。窓を開ければ小川のせせらぎが耳に心地いい。LDKの前にある螺旋階段を下ると、葉わさびが自生する小川があり、それに面して小さな岩風呂まである。
そんな、建て主の遊び心が伺える個性的な家を見つけたのはインターネットでだった。「すべての窓から緑が見えます」というのが間取り図につけられた宣伝文句だったが、本当にその通りで、トイレの小さな窓からですら豊かな緑が見える。家の前の道をそのまま突き進むと、2分もしないうちに山道に。東京都内でありながら、すでに山里の気配だ。そこに今、家族四人で暮らしている。
住まいが変わると、暮らし方も変わるものらしい。以前は意識的に家の中に緑を置くようにしていたが、今は窓の外を眺めるだけで充分。その分、意識が家の中に向くようになった。もっと「暮らしそのもの」を大事にしたいと思うようになったのだ。料理に凝ってみたり、手仕事を厭わなくなったり。些細なことではあるけれど、家にいるのが楽しくなった。
前の住み手の暮らしに思いを馳せるのも密かな楽しみだ。柱や壁に残る猫の爪痕、近所の猫の通り道になっている小さい庭や螺旋階段、壁に残った鋲の跡など。地下の岩風呂にも想像が膨らむ。きっと猫好きで、近所の猫にも愛情を注ぎ、ときには岩風呂で森林浴もどきを楽しむような風流な人だったのかもしれない。夏の岩風呂は、螢を愛でつつお酒も楽しんだりして…。
真新しい家を自分たち色に染めていくのもいいけれど、中古の家を住み継ぐというのも悪くない。前の住み手の暮らしを引き受けつつ、その上に自分たちの暮らしを重ねていくというおもしろさ。今はまだ古民家ほどの歴史も重みもないけれど、今このときがその途中にあって、日々刻まれているのかもしれない、などと思うとわくわくする。暮らしが愛おしくなる。
果たして私たちはどんな住み跡を残しているのか。次にこの家の住み手となる人が、どんな暮らしを思い描いてくれるのか。そんな妄想を楽しみつつ暮らしている。



















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